墓の怪
どんな伝承か
猟師の半右衛門は、高知の城下・川原町の家を一番鶏の鳴く頃に出て、山路を越え、須崎から門屋焼坂などの難所を経て、日暮れにようやく久礼へ着いた。翌朝から高岡郡の山でぬた待ちの猟をする予定で、久礼の八幡宮の軒下で一寝入りすることにした。弁当を使っていると、常夜灯の灯の中から草履の音をさせて人影が近づき、『旦那様、奥様が難産です』と告げた。それは家に置いてきたはずの乳母の声であった。遠い山坂を自分と前後して来られるはずもなく、半右衛門は『これは怪しい』と気を落ち着けて乳母の顔を透かし見たという。
原典より
半右衛門は日が暮れてからやっと久知へ着いた。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。