猫の踊
どんな伝承か
柴田家の備後は前日に丹精して十匁弾を鋳、翌朝ひとりで北山へ入った。獲物がないまま寒い谷を下ると、路の左手の大岩の上に眼の光る山猫のような獣がいた。撃つと何かに弾の当たる音がし、数を読む声と激しい嘲笑が聞こえた。二発、三発と撃つたび怪獣は手にした黒い器で弾を受け、順々に数を取っていく。十を数え終えた怪獣が器を投げつけ「備後、もう弾はあるまい」と飛びかかろうとした時、備後は皮袋の余分の一発を込めて放ち、怪獣は叫んで消えた。器は自家の茶釜の蓋で、五、六日後、床下から飼猫が胸を撃たれて死んでいるのが見つかった。
原典より
老女は淋しい廊下を通って便所へ往った。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。