墓場で狐が読んでいた帳面
どんな伝承か
新一は母のお滝に狐が憑いたと魚屋の子の吉に打ち明け、その狐を斬ったと話した。吉は、狐でも狸でも銀山の鼠取を食わせればまいってしまうと父から聞いたと教える。ある夕方、新一が寺の卵塔場に入っていくと、芒に半ば隠れて横倒しになった大きな石碑の上に、茶色の毛をした犬のような細長い獣が人のように腹這いになり、小さな帳面を前に置いて一心に見入っていた。声を上げると獣は跳び上がって石碑の陰に消えた。落ちていた帳面は半紙三枚を綴じたもので、片仮名らしい字で三十ばかりの名が並び、二枚目の終わりまでは名の上に三角の印がある。最後の三角の下はオタキ、母の名だった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。