六人の漁師
どんな伝承か
土佐の須崎浦で、ある暖かな晩に六人の漁師が夜網を引いていると、袋網に重い手応えがあった。引き上げると、女の頭に銀色の人そっくりの体を持ち、腰から下だけが魚の生き物が入っていた。一人が天秤棒で打とうとすると、それは両手を合わせて拝み、涙を流したようにも見えたが、そのまま打ち殺された。通りかかった老人が人魚だと嘆き、不老長寿の薬になるからと一切れもらって病身の女に食べさせると、女は快くなった。ところが人魚を食った噂が国主に聞こえ、六人は死刑になった。老人は女を男姿の巡礼に出し、自らは妻と出家して六人を弔い、その庵の跡は海底庵と呼ばれる。今も土地では六人で夜網を引くのを忌むという。
原典より
と、魚は横になったなりに、両手をあげて掌を合せながら拝むようにした。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。