忠盛が伊勢別保で人魚を食う
どんな伝承か
前刑部少輔平忠盛が伊勢国別保という所に下ったとき、浦人が日ごとに網を引いていた。ある日、頭は人のようでありながら歯は細かく魚と変わらず、口が突き出て猿に似た大きな魚が三匹引き上げられた。二人でかついでも尾が地に長く引きずられるほどで、人が近寄ると高く叫ぶ声は人のようであり、涙を流すさまも人と変わらなかった。人々は驚き怪しんで、二匹を忠盛のもとへ運び、一匹を浦人に返した。浦人は皆これを切って食べたが何事もなく、その味は格別によかったという。世にいう人魚とはこの類のものかと『古今著聞集』は記す。
原典より
人のちかくよりければ、たかくをめくこゑ人の如し。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。