人魚を食って死ねなくなった男
どんな伝承か
万治二年のことという。雄勝郡の湯沢にある酒造りの家へ、知り合いの漁師から海で珍しいものが揚がったと届け物があった。開けてみると顔は若い女、体は魚である。人魚だと見立てた者がいた。二、三日は息をしていたが死んでしまい、捨てるのが惜しいというので、この家の主人がひとりで食べた。以来この男は死ねなくなり、数百年を生きたという。生き続ける辛さに何度も自ら命を絶とうとしたが、そのたび息を吹き返した。ある日、羽州の湯殿山へ詣でると言って出たきり、行方を知る者はいない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。