足摺岬沖で船の前後を飛び交う火の玉
どんな伝承か
大正五年十一月、鮪漁のため幡多郡清水港から足摺岬沖へ出た発動機船観音丸が、烈しい東南風と豪雨に遭った。機関長下城喜次郎が縄をあげて清水港へ走らせるうち、頼りにしていた足摺岬の灯台の灯が消え、前を行く旧式の有水式発動機船を追ったが、その船は不意に消え、舳先から二間ほどの海上に直径三尺ほどの大きな火の玉が浮かんだ。船尾側にも同じ火の玉があり、二つは猛烈な速さで交互に飛び交って明滅した。臼礁沖に碇泊するまで火の玉は離れず、夜明けとともに消えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。