道普請の恨みで出る老婆
どんな伝承か
昭和十二年十二月、東宮御所と四谷鮫ヶ橋のあいだの道に、怪しい老婆が出るという噂が立った。着物を尻端折りにし、汚れたネルの腰巻を垂らした姿だったという。ある人の息子が神経衰弱のようになり、霊能を持つという若い男に見てもらうと、三十年前に別れた先妻が憑いていると言われた。その先妻は別れて間もなく入水して死んでいるという。祓いを受けた折、霊能家はこうも語った。昨年、東宮御所と鮫ヶ橋の間に出る婆さんを出ないようにしてやった、あれは道路ができて自分の地所を奪られた怨念だ、と。老婆の噂は当時の新聞にも載った。
原典より
* 東京の納豆 (181)* 善方寺の符籙 (184)* 箱を背負った女の姿 (186)* 姉の死 (187)* 按摩の阿岩 (189)* 北海道から帰った男 (191)* 艮の金神 (192…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。