預けられた箱の中の位牌と鼠
どんな伝承か
大正十二年の震災の時、幡ヶ谷に住んでいた三好七郎のもとへ、荻原高三郎という知人が避難して来て一月ほど厄介になった。他へ移るとき「大事の書類が入れてあるから預かっておいてもらいたい」と言って高さ三尺ほどの箱を置いて行き、三好は壁廚に入れておいた。翌年、七郎が病んで夜になると魘され、女房の留が問うと「あの箱の中から男と女が出て来て紙幣を数える」と言い、やがて死んだ。まもなく長女の芳と次男の次郎も病み、次郎は夜になると飛び起きて叫んだ。留が箱を開けると、十数個の阿弥陀仏と記した位牌と六匹の鼠が入っており、鼠は蓋を開けるなり飛び出して行った。三好家は代々幡署に荻原の捜査を願い出た。
原典より
* じゃれつく犬 (274)* 怪談会の怪異 (275)* お天気祭 (276)* 三千円の借金 (279)* 画家の死 (280)* 二階の怪婆 (280)* 死んでいた狒々 (282)*…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。