自殺前日に撮られた須磨子と仁丹の広告
どんな伝承か
某新聞の写真班の一人が、よい写真種はないかと神楽坂方面を歩いていると、前方に若いすっきりとした女が立ち、うつろな眼つきで傍の電柱の広告をぼんやり眺めていた。当時有名な女優の松井須磨子であったから、写真は珍しくないが街頭の須磨子という趣向に興味を覚えてパチリと撮り、近づいて挨拶をして別れた。翌日社へ行って現像していると、須磨子自殺の報が伝わってきた。写真はさっそく自殺の記事に添えられ、写真班は特種料にありついたが、須磨子とともに写っていた電柱の仁丹の広告には「明日をも知れない人の身の上」という文字があった。
原典より
* レンズに現われた女の姿 (347)* 幽霊写真 (348)* 死児の写真 (350)* 写真に映った登山姿 (350)* 御嶽登山の記念写真 (351)* 鏡に映る女の顔 (352)* 堀…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。