天幕の集住地ミカン山と各地の貧民窟
どんな伝承か
千葉県柏市藤ヶ谷のような、普通社会の埒外に生きる人びとが集まる場所は、ほんの一世紀ばかり前まで日本の至るところにいくらでもあった。天幕部落でいえば、現在の大阪市阿倍野区旭町一丁目の雑木の丘にあった通称「ミカン山」が、おそらく最大であったろう。大正時代の半ばすぎまで、ここには三百人もの「乞食」たちが暮らしていた。自らこの天幕村で生活した清水精一『大地に生きる』によれば、十畳から二十畳ほどの天幕に十人から十七、八人が住み、中央に炉を切って自在鍵に鍋を掛け、煮炊きも洗いもすべてその鍋で弁じていたという。
原典より
佐貫の観音岩洞窟最後の穴居集団だったか「乞食岩」という地名もある木賃宿は田舎にも多かった第6章 悲劇を伝える二つの小地名谷川岳南麓に暮らして狩猟罠「オス」を仕掛けていたころ誤ってオスに入り圧死した旅芸人—— 村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。