花屋の前で告げたネエヤの死
どんな伝承か
著者が満二歳のころのことで、自分では覚えておらず大きくなってから母に聞いた話だという。生まれてからずっと世話をしてくれた女中の『お春さん』という人がいて、うちでは『ネエヤ』と呼んでいたが、郷里から急に人手不足になったと便りがあり半月ばかり暇をくれと言って帰った。それから十日ほどたったある日、母が背中に著者をおんぶして青山の通りを歩いていると、花屋の前でしきりにむずかり、『ネエヤにお花買ってやるう。ネエヤは死んだんだから』と足をバタバタさせた。母は縁起が悪いと叱ったが、一週間ほど後にネエヤの母から便りが届き、ネエヤは帰郷してしばらくして疫痢でコロリと死んだと知らされた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。山や湿原の探検、チョウや小動物とのつき合い、酒の話とともに、横尾谷の岩小屋で出会った幽霊、木曾御岳の人魂、亡兄との交信、テレパシー、呪い殺しの実験、雨やみの術など、著者自身の体験した怪異をつづる。生き物・酒・山・兄との交信の四部からなり、あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。