歌で助かったころびきりしたん
どんな伝承か
『江勢物語』は『伊勢物語』の各段を笑いに転じた≪假名草子≫で、その一段に、きりしたんの御法度があって武藏野へ連れて行かれた男が、科人なれば町奉行に搦められたという話がある。女も男も叢の中に置いて火をつけようとしたとき、女がわびて『武藏野は今日はな焼きそ淺草や夫も轉べり我も轉べり』と詠んだのを聞いて、町奉行は夫婦ながら助けて放してやったという。『転ぶ』とは信仰を捨てて改宗することで、そうした人をころびきりしたんと呼んだ。この浅草原の刑場は現在の台東区鳥越にあたり、承応年間まで存続したのち浅草今戸橋南、さらに小塚原へ移されたと著者は記す。
原典より
浅草原の刑場(現在の台東区鳥越)は、承応年間まで存続し、のちに浅草今戸橋南に移され、更には小塚原に移された。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。