隠亡堀に流れ寄った戸板の死骸
どんな伝承か
第三幕は砂村隠亡堀の場である。高い土手の下に枯れた葦が続く堀端で、伊右衛門が釣りをしている。日が暮れて竿を上げたとき、菰をかけた杉戸が流れ寄ってきた。引き寄せて片面を見ると、肉の落ちたお岩の死骸が両眼を見開き、守り袋を突きつけて、民谷と伊藤の血筋を絶やしてやると恨みを述べた。伊右衛門が念仏を唱えて戸板を裏返すと、藻をかぶった小平の死骸があり、藻が落ちると旦那さま薬を下されと手を差し出す。伊右衛門が斬りつけると、死骸はたちまち骸骨となって水中へ崩れ落ちたという。
原典より
隠坊堀の伊右衛門宅に戸板が流れつき、そこでもお岩と小平の幽霊が戸板にくくられたままであらわれ、…—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。