豊志賀の顔に変じたお久
どんな伝承か
『真景累ヶ淵』で、豊志賀の死後、新吉がお久と連れ立って落ちのびる場面。松戸に初めて一泊した翌晩、お久は、あなたは私を見捨てるだろう、私はこんな顔になったと言い出す。見るとお久の目の下にぽつりと腫物ができ、たちまち腫れ上がって死んだ豊志賀そっくりの顔となり、真っ暗な闇の中にその顔だけがありありと浮かんだ。恐ろしさに我を忘れた新吉が鎌をむやみに振るうと、刃は逃げかけたお久の喉を裂き、お久は草をつかんでもだえ死んだ。直後に土砂降りの雨と雷が襲い、新吉は雨の中で知り合った悪党、土手の甚蔵の家に転がり込む。お久を殺したのは累ヶ淵であった。
原典より
と新吉が見ると、お久の綺麗な顔の、眼の下にポツリと一つの腫物が出来たかと思ふと、忽ち腫れ上つてまるで死んだ豊志賀の通りの顔になり、…—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。