河原で見つかった狐にひかれた嫁
どんな伝承か
陸奥の守山領、現在の福島県郡山市に伝わる記録簿『御用留帳』には、狂気を示す事例が五十九例記されている。そのうち一七四八年(寛延元)の記事に、村の喜惣兵衛という者の嫁がふいに出奔して行方が知れなくなった一件がある。所々を尋ねても分からなかったが、夜に入って金屋向いの河原で見つけ、引き返して様子を見届けたところ、狐にひかれた様子で正気もなかったという。組頭・村役人・修験の三者の書付は、これを意図的な欠落や草隠れではなく「病気も同様の儀」「余心もこれ無く狐付の事」と認め、訴訟にもならないで許されている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶(川村邦光・1989年(平成元年))
『幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶』は、川村邦光が一九八九年に著した近代日本の民衆の心性をめぐる論考である。明治の「血税一揆」の流言、トラホームと〈迷信〉、狐憑きと精神医学、「脳病」「神経病」、座敷牢と精神病者監護法、芦原将軍や出口なおの神がかり、祖先教と靖国の霊魂の管理を、新聞記事や医学書、調査報告から読み解く。はじめにの後に三部と終章「近代日本と霊魂の行方」を置き、あとがきで結ぶ。