夜に糊や酢を買うときの言い換え
どんな伝承か
昔から夜の商いには忌みことばがあった。太田南畝らと交際のあった大阪の田宮橘庵の『東騙子』(享和三年刊)には、京都で夜分に糊を買うとき、普段のように「糊」とだけ言っては売らず、「ひめのり」と言えば売る、とある。また山口幸充著の『嘉良喜随筆』(寛延三年頃)には「酢を日暮れて買ふことを忌む。若し求むればあまりと云ふ」とある。昔風の感覚では、昼と夜の境の夕がたは逢魔が時であり、夜はさまざまなデモン・スピリットの活動する不安な暗黒の時間であったから、日中にくらべてよほど忌み慎まねばならなかったのである。
原典より
京都にて夜分福傑糊を買ふに、つねのごとく糊と許り言うては売らず、ひめのりと言へば売るなり。—— 現代の迷信(今野圓輔・現代教養文庫・1961年(昭和36年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代の迷信(今野圓輔・現代教養文庫・1961年(昭和36年))
『現代の迷信』は、今野圓輔が昭和三十六年に著した、現代の俗信を一般の読者に向けて説いた読み物である。昭和三十年代の新聞・雑誌の報道や聞き書きを主な材料に、縁起かつぎ、前兆・占い・禁忌・まじない・願掛け、憑きもの落としの殺人や新興宗教の騒ぎまでを全国から拾い集めている。「現状」「過誤と真実」「その背景」「迷信論」の四部から成り、巻末に読者の問いに答える迷信身の上相談を付ける。