山で物言う黒い化物トンゾウ
どんな伝承か
鼠入の館石の分家に、佐平殿という物のよく分かった、人にすぐれて力の強いマタギがあった。ある日の夕方、宮ノ沢へオキジシに出かけたが、その夜に限って鹿が寄らず、夜明け方に山を下って来ると、傍らの茂みから真っ黒な牡牛のような大きな物が飛び出した。鉄砲も向けられぬほど近く、後ずさりしていると、それが人間のような大声で、俺はトンゾウだ、撃ったなら握り潰すと吹き鳴らした。佐平は夢中で逃げ帰った。しばらくして横長嶺へオキジシに出かけると、大きな地揺れとともに一本栗の樹へ飛びついた物がある。同じ化物で、この山を荒らすなら今度は掴み殺すと言った。佐平は詫びて逃げ帰り、それから病みついて十日ほどで死んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。