箸を袖に隠した母娘の物飛び
どんな伝承か
浅虫の海老名・江口両家に続いた物飛びの怪異は、のちに三人の女の仕業と判明した。青森警察署長内田信安が浅虫へ出張して取り調べ、海老名方の二階に止宿していた館山おきん四十九歳と娘おはぎ十九歳の仕業と断じ、駐在巡査葛西平次郎に母子の挙動を注意させた。葛西は青森駅長とともに同家へ赴いて偵察し、江口の娘おしゅん十五歳が袖の下に箸を隠して投げようとするところを発見して拉致し、尋問すると、おきんの教唆で品物を人知れず隠しては投げつけていたと分かった。動機は語らなかったが、人の仕業と知れて不思議はたちまち消え、人々は一笑に付したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年))
『妖怪の民俗学――日本の見えない空間』は、宮田登が一九八五年(昭和六十年)に著した、妖怪の現れる場所を論じた民俗学の書である。柳田国男と井上円了の妖怪論、幽霊と妖怪の違い、口裂け女と産女、皿屋敷、化物屋敷と下女、辻・橋・境の怪異、怪光と怪音、七不思議、通り悪魔と髪切りを、古文献や新聞記事、各地の伝承から読み解く。四章から成り、都市の空間に妖怪が現れる仕組みを軸に据える。