肩の痣を印に生まれ変わった座元
どんな伝承か
小石川のある所に、建具屋の吉次郎という者がいた。その妻のたかが眠っていると、ある夜、枕元に顔の青ざめた男が座っていた。男は自分は猿若町の座元、市村羽左衛門であると名乗り、このたびお前の腹を借りて午年の九月二十一日に生まれる、しるしは肩の渦巻の痣だと告げる。そこで目が覚めた。果たしてその日に男の子が生まれ、肩には渦巻の痣があった。羽左衛門の生まれ変わりだと世間で言いはやされたという。
原典より
小石川の某処に建具屋吉次郎といふものの妻たかといふもの、或夜枕元に色青ざめたる男が居つて、自分は猿若町座元市村羽左衛門であるが、此度御身の腹をかりて、午年九月二十一日に出生いたす、印には肩に渦巻の痣ありといふを聞きて夢が…—— 迷信の研究(富士川游(監修)・富士川游・医学史/迷信研究・1932年(昭和7年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の研究(富士川游(監修)・富士川游・医学史/迷信研究・1932年(昭和7年))
『迷信の研究』は、富士川游が東京の中山文化研究所で監修し、昭和七年二月の緒言を付して世に出した迷信の解説書である。迷信を思考の錯誤ととらえ、その発生の由来を説いたうえで、身体・精神・疾病・妊娠と出産・育児・禁厭・相法・卜占・天文と暦・犯罪などの欄ごとに迷信の事例を挙げ、科学的な説明を加える。同研究所の展覧会に使った説明のポスターをもとに簡潔にまとめ、巻末の奥書に参照した独逸と日本の文献を掲げる。