戸袋から現れて組みつく女
どんな伝承か
文化の頃、下町で評判をとっていた菓子屋の房斎が、文化九年の八月に数寄屋橋の外へ移り住んだ。すると小者が二階の戸を開けようとしても半分までしか動かず、力を込めても引っかかる。主人が上がって手をかけるとすんなり開いた。翌日も同じことが起き、腰を据えて押し込んだところ、戸袋の隙間から女がひとり現れて男に組みついた。突き放すと消えた。次の日には、その女が着ていた単衣が軒先に引き掛けてあり、取ろうとするとやはり消えたという。以前の住人も同じ怪異に遭っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。