裃姿で埋め立てを願い出た蝦蟇
どんな伝承か
元文三年、江戸の松平美濃守の下屋敷が本所にあり、方三町余りの沼があった。ある年この沼を埋め立てようという議が起こったところ、上屋敷の玄関に憲法小紋の裃を着た老人が一人来て、取次の侍に、私は御下屋敷に住む蟇でございます、このたび私の住居の沼を埋めるとの御沙汰がありますが、何とぞ見合わせていただきたいと願い出た。取次の侍が退座して怪しく思い、襖を隔てて窺うと、憲法小紋の裃と見えたのは蟇の背の模様で、大きさは人が座ったほどもあり、両眼は鏡のようであった。美濃守に申し達すると聞き届けられ、埋め立ては止められたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・昭和初期(1927))
心霊研究家・岡田建文が昭和二年(一九二七)に著した『動物界霊異誌』。現代物理は宇宙の大物理の末梢に過ぎぬとの立場から、動物の霊異を迷信的虚妄として退けず証明すべき事例として収集する。蝦蟇(ヒキガエル)の章では、蛇を埋めてクリ茸を生やし食う怪(島根波根東村)、背に五寸釘を刺され口から怪光を吐く大蝦蟇(会津若松龍田屋、同時に幼児が高熱)、猫を灰色の液汁に溶かす怪(石見久利村)、慶応二年に浄土寺へ夜ごと現れた武士の正体が蝦蟇だった話を収める。