裃姿で沼の埋め立て中止を願う蝦蟇
どんな伝承か
元文三年、江戸の松平美濃守の下屋敷が本所にあり、方三町余りの沼があった。ある年この沼を埋め立てようという議が起こったところ、上屋敷の玄関に憲法小紋の裃を着た老人が一人来て、取次の侍に、私は御下屋敷に住む蟇でございます、このたび私の住居の沼を埋めるとの御沙汰がありますが、何とぞ見合わせていただきたいと願い出た。取次の侍が退座して怪しく思い、襖を隔てて窺うと、憲法小紋の裃と見えたのは蟇の背の模様で、大きさは人が座ったほどもあり、両眼は鏡のようであった。美濃守に申し達すると聞き届けられ、埋め立ては止められたという。
原典より
取次の士退座して怪しきことに思ひ、 を隔て、窺へば、憲法小紋の と見えしは、墓が背中のにて、大さは人の居りたるが如く、兩眼鏡の如し。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。