強力の川合氏に挑んだ川小僧
どんな伝承か
名古屋の川合氏は力の強い大男だった。宝暦三年七月三日の明け方、老瀬川のほとりを一人で歩いていると、柿色の帷子を着た小男が立っていた。どこへ行くのかと問うと、梅の森から水車へ行くと答えた。川合氏がそのそばを通り過ぎると、小男は帯をつかんで引き寄せた。川合氏は振り払い、人を悩ませてきた川小僧め、生かしてはおけぬが今は殺生を慎んでいるので命は助けると言うと、小男は川へ飛び込んだ。川合氏が土手で煙草を吸っていると、小男はまた出て来て近づき、叱られると、あなたほどの力持ちにはこれまで出会ったことがないと言って、再び川へ飛び込んだという。
原典より
川合氏傍を通うさきへ行きしかば、彼の小男子帶を取りて引寄せけり、川合氏振放して後ろを顧み、年頃人を惱めし川小僧め生かし置くべきにあらねど今は殺生を禁斷す、依て生命を助くと云へば川へ飛入りたり。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。