建長寺の古狸が僧に化け勧進
どんな伝承か
鎌倉の建長寺の境内に数百年住んだ古狸が、天明四年に化けて騒ぎを起こした。寺が山門再建の寄付を募ろうとしていたころ、建長寺の長老と名乗る僧が寺の書付と人馬帳の写しを持ち、近国を勧進して回った。大雪の日に武蔵の板橋宿で泊まったが、膳では汁椀を持てあまし、風呂には入らず、障子に映る影は狸の姿だった。翌日泊まった練馬村の宿では、下女が、尾だけを湯桶につけて水音を立てているのを見た。次の日、青梅街道で駕籠かきが犬を呼び寄せると、犬は僧を引きずり出して咬み殺した。三日後に亡骸が狸に変わり、持っていた勧進の金は建長寺へ送り届けられたという。
原典より
夫に最も奇怪なことは、其僧の影が、障子へは狸の姿に映ったので、宿屋の人々は耳語して怪んで居た。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。