厠の手と引き換えの狸伝膏
どんな伝承か
備前岡山のある士族の家では、女が厠に入ると下から毛深い手が出てきて尻をなでるという怪があった。恐ろしさに転居してもやはり同じことが起きる。そこで主人が意を決し、ある夜、尻をなでにかかった手を一刀のもとに斬り落とした。妖怪は手を残して逃げ、その手は老狸のものだったので、主人は大切に保管した。やがて狸が主人の夢枕に立ち、手を返してくれれば礼に秘薬を伝授すると懇願する。主人が返してやると、狸は膏薬の製法を教えて消えた。以後この家では、その薬を狸伝膏と称して売り出したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。