地蔵寺の読経で踊り出す犬神憑き
どんな伝承か
阿波の国の某氏が報じた話で、報告者は維新前に立江村の地蔵寺に身を寄せていたことがあった。寺の地蔵は霊験あらたかとされ、犬神憑きや狐憑きの人が絶えず参りに来た。僧が経を読むと犬神憑きはしきりに踊り出し、あらぬことを口走ったり、狂ったように縁側から飛び降りて地面に倒れたりした。数間もある高い縁側から飛び降りても一度も怪我をしないのが不思議だった。経の功徳で正気に戻る者も多いが、しばらくするとまた狂い出す。ある犬神憑きの老婆は僧の姿を見るとさめざめと泣き、僧が去ると背中を押してくれと頼み、押すと腹がゴロゴロと鳴って正気に戻るのが常だったという。
原典より
ただ、ここに奇怪だとおもわれるのは、犬神が数間もある高い縁側から飛びおりても、ついぞ怪我をした事がないのである。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。