相模入道の酒宴に加わった異形の田楽
どんな伝承か
太平記の話。相模入道が酒宴で何杯も杯を傾け、酔った勢いで立ち上がって長いあいだ舞った。四十過ぎの入道の舞で見るべきものもなかったが、どこから来たとも知れぬ新座・本座の田楽法師が十余人、突然座に加わって舞い歌い始めた。ある官女がその歌声の面白さに障子の隙間からのぞくと、田楽と見えた者は一人も人ではなく、嘴の曲がった鳶のような者や翼のある山伏姿の者ばかりだった。知らせを受けた城の入道が太刀を取って駆けつけると、化け物はかき消えたという。
原典より
ある官女この聲を聞きて餘りの面白さに、しゃうじのひまより是れを見るに、新座の田樂ごもこみえつる者一人も人にてはなかりけり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。