法燈寺を天狗が一夜で建立する
どんな伝承か
紀伊の由良にある法燈寺は、法燈国師が開いた七堂伽藍の大寺だったが、たび重なる火事で再建の手立てもなく、草葺きの仮の庵が残るだけになっていた。ある時ひとりの僧が来て住持と語り、開山の筆に「水去り火登る」とあるので何度建てても焼けるが、それでも造営する気があるなら自分が建ててやろう、ただし最後はまた焼けて護摩堂だけが残ると告げた。約束の夜、里の者に言い含めて静まっていると、数知れぬ人の声や木を挽く音、手斧や槌の音が夜通し響き、明け方には金銀や珠玉で飾られた伽藍が建ち並んでいた。のちに予言どおり焼けたが、護摩堂だけは無事に残ったという。
原典より
數千萬人の聲して宮木挽く音、手斧、槌音、こりごりにせしが、夜あけて見れば七堂伽藍殘る所なく金銀を彫り、珠玉をみがきて立てられしかご、…—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。