道理に責められ首をくくった狐
どんな伝承か
武蔵国多磨郡の多摩川沿いの村での出来事として、府中の人が語ったという話である。秋の末、稲を刈っていた農夫が、稲の間で昼寝をしている子狐を見つけた。驚かすのも忍びないと、その部分だけ刈り残し、なお眠ったままなので両手で抱えて邪魔にならぬ場所へ移してやった。ところが翌朝、夫婦の間に寝かせていたわが子が姿を消しており、門口で血まみれになって死んでいた。妻は亡骸を抱いて狐の穴へ行き、恩を仇で返したと半時ばかり罵って帰った。暁方、門口に老いた狐が二匹、葛で首をくくって死んでいたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。