修験者のにらみで退いた狐憑き
どんな伝承か
窓のすさみによれば、三井寺の観音堂から大津へ越える道を小関越という。大津の浜辺に住む験者がそこを通りかかり、子を連れて昼寝していた狐を追い散らした。まもなく留守宅の妻が、罪もない子どもを打ち散らされて口惜しいとわめき出した。近所の者が誰の仕業かと問うと、ここの大法師だと言う。それならなぜ夫に憑かないのかと問えば、夫の坊は恐ろしくて寄りつけないからだと罵りやまない。翌日夫が帰るとぴたりと止み、出かけるとまた口走った。験者が腕まくりして目をいからせ、一昼夜片時も休まず妻をにらみつけたところ、跡形もなく治まったという。
原典より
夫是れを聞きさらばすべき様ありとて、腕をまくり目をいからし、一日一夜しばしもたゆまず睨めつければ跡かたなくやみにけり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。