川崎宿問屋に伝わる狸の書
どんな伝承か
兎園小説で、国分寺の狸の書の話に続けて、筆者の友人鹿山が語ったところでは、以前鎌倉へ遊びに行った折に川崎の宿に泊まり、問屋の家に蔵されている狸の書を見たという。「不騫不崩南山之寿」と書かれ、その書体は八分でも楷書や行書でもない奇怪なもので、いかにも狸の書らしかった。問屋の話では、鎌倉のある寺の僧と称して五、六年このあたりを勧化して回っていた者が書いたもので、最後は鶴見・生麦のあたりで犬に食われ、狸と知れたという。鹿山が訪れた十年ほど前の出来事だった。
原典より
問屋の話に、鎌倉の何寺の僧のよしにて其のあたりを勸化せし事五六年の間なり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。