鏡に映った侍女の裂けた口
どんな伝承か
ある旗本が娘の教育係となる侍女を探していたところ、谷中の法恩寺の住職の口ききで、中年に近い品のよい女を雇うことができた。和歌の心得もあり筆も達者で、よい人を得たと旗本は喜んだ。ところがある晩、娘の部屋をのぞくと、娘は寝入っており、侍女だけが鏡に向かって鉄漿をつけている。その鏡に映った顔は、口が耳もとまで裂け、耳は後ろへぴたりと反っていた。旗本は翌朝、子細あって暇を出すと告げる。侍女の目は吊り上がり、口はみるみる耳まで裂けて、にじり寄ってきた。抜き打ちに斬りつけると、女は叫んで息絶え、やがて途方もなく大きな老猫の姿になった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。