葛城山の空を龍で駆ける青油笠の怪人
どんな伝承か
斉明天皇の元年五月、龍に乗り青い油笠を着た人が葛城山の空高くに現れ、見る間に生駒山の方へ駆け、昼ごろには松嶺という山のあたりから西へ飛び去ったと『日本書紀』は記す。この年、土木好きの女帝は大勢の民を集めて飛鳥の小墾田に瓦葺きの宮殿を造り始めたが、深い山から伐った木は運び出せずに朽ち、造営はかなわなかった。冬には住まいの板蓋宮が原因の分からない火事で焼け、のちに建てた岡本宮も炎上し、最愛の皇孫建王まで失ったという。著者はこの怪人を、帝位をめぐる暗闘と苛酷な労役に苦しんだ時代の影とみている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。