童謡が予言した万の子の惨死
どんな伝承か
聖武天皇の世、菴知村の万の子を嫁にほしがっているのは、南無南無と唱え鼻をすすりながら説教する山の修行者だ、という意味に取れる奇妙な歌が流行った。大和の国十市郡の菴知村には鏡作りの造という富豪がいて、その娘が万の子である。器量よしで、身分の高い人々から幾度も求婚されたが、すべて断っていた。ところが絹の反物を三台の車に積んで求婚に来た男には心が動き、会ってすぐにその男と夜を共にした。寝室から痛いという声が三度聞こえたが、両親は気にとめなかった。翌朝いつまでも起きてこないので覗くと、娘は頭と指一本を残して食い殺され、贈られた絹は獣の骨に変わっていた。歌はこの惨事を予言していたのだという。
原典より
次の日、娘たちがいつになっても起きてこないので、不審に思った両親が寝室をのぞいてみると、なんと娘は、頭と指一本を残して食い殺されていたのだ。—— 呪術と占いの日本史(渋谷申博・瓜生中・呪術・占い史・1992年(平成4年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
呪術と占いの日本史(渋谷申博・瓜生中・呪術・占い史・1992年(平成4年))
『呪術と占いの日本史』は、渋谷申博・瓜生中が平成四年に著した日本呪術史の概説書である。縄文の屈葬や土偶、卑弥呼の鬼道から中世の呪詛、近世のおかげ参りと「ええじゃないか」を経て、明治の神仏分離と修験・祈禱の禁止までを、記紀や史書の記事と民俗の断片から拾い上げる。古代・中世二章・近世の四章を小項目に分けて立て、表の歴史に現れない民間信仰を「闇」の系譜としてたどる。