対馬南端の聖地天道山と茂地の禁忌
どんな伝承か
対馬は人の入ってはならない聖地がとくに広かったところで、そこを茂地といい、海岸ならば卒土ヶ浜とか不通浜などといった。島の南端の天道山はとくに霊地として尊ばれ、天道法師をまつってあるというが社殿はなく、山全体が祭場である。祭場の入口を清輪とよび、神籬を怕所といった。神籬は石を積み上げたもので、磐境とも標の塔ともいった。一般の人はこの磐境の外を通るときにすら手を洗い口をすすぎ、けがれを去り、榊の葉をくわえて言葉を発せず、駕籠や馬に乗る者は下り、道に落ちたものは拾わなかった。忌中の者は境外といえども茂地の近くを通ることを許されなかった。だからそこには樹木がうっそうと茂り、昼もなお暗かったという。
原典より
忌中の者は境外といえども茂地の近くを通ることをゆるされなかった。—— 日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。