主を救い首を斬られた犬鳴山の義犬
どんな伝承か
宇多天皇の御代のことだと伝えられている。犬鳴山の麓に一人の猟師があり、ある日犬を伴れて山中に分け入ると、一頭の鹿が飛び出した。弓に矢を番えて狙い定めようとすると、犬がしきりに吠えて猟師の裳を啣えて引っ張る。叱って狙いを定め直したときには、鹿はもう林の中に姿を隠していた。それでも犬は吠えやまないので、猟師は忌々しさのあまり腰の山刀で犬の首を斬り落とした。するとその首が大木の上へ飛び上がり、今にも猟師を呑もうとしていた大蛇の咽喉に噛みついた。犬は七宝滝寺の倶利伽羅不動明王の使獣、大蛇は不動の化現で殺生の罪業を戒めたのだと悟った猟師は、犬の死骸を懇ろに葬って出家したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。