観音閣へ流れ寄る散銭と落書
どんな伝承か
阿伏兎では、崖下に小舟を寄せて、行き交う舟に散銭を乞うことがあった。誤って海に落としてしまった銭も、みな観音閣の岸へ流れ寄り、蠣殻のように岩へ貼りついているという。楼には西国・九州・四国へ向かう旅人や巡礼、参宮の者、六十六部、さらには忠海や御手洗、鞆の遊女船の者までが上がって遊び、己の名や詩歌、発句、狂歌を板戸や壁柱に書き散らした。その中には、阿伏兎とは偽りでねぶとであろう、膿もあり走りもすれば圧しもする、という当意即妙の落書もあったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第10巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第10巻』は、全国の伝説を型ごとに分けて集めた叢書の一巻である。岡山・広島・山口の三県を伝承地とし、蘇民将来、吉備津彦と温羅、厚狭の寝太郎、化け猫、河童駒引き、夜泣き石、姥棄て山などの伝説を、聞き書きや市町村誌、民話集から採って収める。「文化叙事伝説」と「自然説明伝説」の部に分けて番号順に並べ、各話には伝承地と本文のあとに〔類話〕と近世の地誌などを引く〔文献〕を添える。