備後の大元稲荷教と霊巌の草
どんな伝承か
丹波綾部の大本教に対抗するように、備後の御野村に大元稲荷教という一派が近ごろ生まれた。教祖は大教正を名乗る重政瑞宣である。三種の神器に込められた教えで国体主義を広め、宇宙の本霊である大元稲荷を祈れば家内安全と商売繁昌が得られると説く。教主は霊巌と呼ぶ九十四畳敷きの大岩の上に座り、病を訴える信者には岩の割れ目に生える霊草を取って飲ませ、どんな大病もたちどころに治るという。宣言書では稲荷は狐ではなく米の精神だと説いていると著者は紹介し、それでも信者が集まる世相をすさまじいと評している。
原典より
そして敎主は、靈巖と稱する九十四疊敷の大岩の上に端坐して、信者の病気を訴へるものがあると、その靈巖の彫間の靈草を取つてこれにのませる。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。