藁の大蛇が呼んだ頼太水の洪水
どんな伝承か
島根県能義郡広瀬町(現・安来市)の話。寛永十二年の洪水は一説に享保十二年ともいい、俗に頼太水洪水と呼ばれる。布部の河原に頼太・頼次という兄弟がおり、漆かきを生業に細々と暮らしていた。布部川の奥には雄渕と雌渕があり、なかでも雌渕は大岩に囲まれた深い渕で、底には漆の樹液がよどんで柱のようになっていたという。兄の頼太がその底へ潜って一攫千金を狙うと言い出したので、止めきれない弟は恐れさせようと、夜半こっそり藁で大蛇を作って渕に沈めた。翌日、何も知らぬ頼太が渕へ身を躍らせると、たちまち黒雲が湧いて雷雨となり、兄は行方知れずになった。人々は藁の大蛇が生気を得て兄を呑み、洪水を起こしたのだと語り伝えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第11巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第11巻』は、山陰の鳥取・島根両県の伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。矮姫による穀物の伝来、大山の山くらべ、伯耆の白兎、雲州皿屋敷、七尋女房、牛鬼、隠岐の後鳥羽上皇などを、伝承地を明記した口承の例話で示し、類話と近世以降の文献を添える。「文化叙事伝説」「自然説明伝説」の部に分けて話ごとに番号を付し、凡例のとおり例話・類話・文献・参考の順に並べ、多くの話に高木・柳田による伝説名を添える。