櫛の下から湧いた幽霊井戸
どんな伝承か
日照りの年でも涸れないので知られた幽霊井戸がある。昔その角に飴屋があり、ある夜、白い着物の二十四、五の女が一文で飴を買い、坂を登って光源寺の方へ去った。同じことが幾晩も続くので飴屋があとをつけると、女は寺に入って本堂脇の墓に消え、柳の下から赤子の泣き声が聞こえた。翌朝、和尚と行ってみると新しい墓の塔婆が立っていた。彫刻師の藤原清永が京で知り合った宿の娘で、延享五年五月に清永が郷里へ呼び戻されたあと、はるばる訪ねてきて力尽きたのだという。墓を掘ると生まれたばかりの赤子がいて、六道銭で飴を買って育てていたらしかった。飴屋の前に落ちていた櫛の下を掘ると冷たい水が湧き、それがこの井戸だと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第13巻(山中耕作・宮地武彦(執筆・整理)/荒木博之(解説)・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第13巻――北九州(福岡・大分・佐賀・長崎)』は、福岡・大分を山中耕作、佐賀・長崎を宮地武彦が執筆・整理し、荒木博之が解説を担った伝説資料集の一巻である。姫島、うつぼ舟、百合若大臣、黒髪山の大蛇退治、平家谷、炭焼小五郎、河童、白米城など、北九州四県に伝わる伝説を題目ごとに収める。各題目は口承を重んじて選んだ例話を冒頭に据え、県別の類話を梗概にして伝承地と出典名を添え、近世以後の史料を文献として抜き出す編み方をとる。