冠岩と往来する大塚の沼の緋鯉
どんな伝承か
秩父市浦山の大塚に小沼があり、その主は年を経た緋鯉で、二里離れた冠岩の小沼とのあいだを跳ねるように往き来していたという。ある日、沼のほとりでうたた寝した猟師が目を覚ますと、空は暗雲に覆われ沼は激しく波立ち、丸太のような大緋鯉が飛び出して冠岩の方へ消えた。猟師はやっとの思いで家に帰ったが、そのまま原因の知れない病で寝ついてしまった。この話を聞いた豪傑の石堂某が毎晩沼で待ち構え、ある月夜、赤い光を宿した黒雲が沼へ入ろうとしたところを強弓で射抜いた。以後、この怪物は出なくなったという。
原典より
秩父市浦山は、熊本の五家荘、徳島の祖谷溪、長野の木曽そして福島の会津とともに武陵桃源の地といわれ、今尚多くの奇異な風俗を残しております。—— 秩父の伝説と方言 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父の伝説と方言
『秩父の伝説と方言』は、秩父市教育長鶴沢福松の序を付し、編集委員が執筆整理にあたって編んだ秩父地方の伝説と方言の集成である。秩父市と秩父郡に伝わる伝説を集め、武甲山麓のジジイ・ババア石、橋立鍾乳洞の悪龍、畠山重忠や坂上田村麻呂にまつわる話、伐ると祟る天狗松などを語り口調で記す。伝説は石・水・塚・屋敷跡・山と人物・地名・社寺および城跡・木に関する八つの部に分け、話によっては他地方の類話を注記する。