失くならぬ落し物
どんな伝承か
三峰の社務所を訪れた参詣客が、盗難除けの神社に金庫があるのは不自然ではないかと質問した。社務所の人間は、この山では物が失くならないと説明する。参詣人が懐中物を落としても、山に入ってから気づくため、どこで落としたか分からない。しかし翌日提灯を借りて探すと、落とした場所にそのまま落ちているという。これは御犬族様の加護だと信じられている。盗難心を起こせば罰を受ける山であり、昼夜を問わず神の目が光っているとされる。金庫は神の信用を損なうようだが、実際には神社ほど泥棒に安全な場所はなく、金庫と神の両方が相互に防犯効果を高めているという独特な解釈が述べられている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。