炉の火に映った未来の夫
どんな伝承か
まだ男を知らぬ娘が人目を避け、月の障りで汚れた腰巻を炉にくべると、その炎の中に将来の夫となる男の姿が現れる——江戸の下町ではそんな占いが行われていたという。吉原のある見世の女もこれを試したところ、火の中に浮かんだのは毎朝格子先を流して歩く雪駄直しであった。当時ほとんど人として扱われぬ身分の男で、女は身の浅ましさを嘆き、通ってくる別の男を道連れに無理心中を仕掛ける。男だけが死に、女は生き延びて日本橋に三日晒され、弾左衛門へ引き渡された。結局、火の中で見た男と夫婦になったと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。