群狼のさまよふ夜
どんな伝承か
三峰山麓から本社へ至る七、八里の道のりには、山深い地に散在する家々がある。この地では狼を「御犬族さま」と敬称で呼ぶ慣習があり、どの家にも狼を祀る社が設けられている。食べ物を供えると消えるのは、狼が食べるためだという。数え切れないほどの御犬族が山に棲息し、秋冬になると遠吠えが鳴り響き、山里の人々は厳重に戸を閉じ、大きな火を焚いて人間の匂いと火で狼の侵入を防ぐ。狼は火を恐れるため通常は侵入を避けるが、かつて火が不十分だった家では土台下を掘られた事例があり、夜中の物音で主人が目覚めたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。