笹子峠で狼に運ばれる新仏
どんな伝承か
笹子峠の七兵衛茶屋の七兵衛が、夜中に小用に起きて眠れずにいると、からんからんと鈴の音がした。戸を細く開けて覗くと、月の冴えた街道を、白い着物を着た人のようなものが地上三尺ばかりを浮いて、流れるように、というより引きずられるように行く。鈴の音はその袂から聞こえ、手はだらりと垂れ、頭は見えず足を引きずっている。よく見ると白いものの下に細い犬のような脚が二三十本群れていた。後に峠の下で新仏の出た家を探ると、初鹿野で神主が亡くなり、埋める際に年来大切にしていた鈴を袂に入れてやったという。狼は新墓を嗅ぎつけると必ず遺体を運び去るのだと語られた。
原典より
白い着物を着た人間のやうなものが、地の上三尺ばかりをふわり浮んで、流れるやうに行く。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。