山賊から商人を救った観音と野坂寺
どんな伝承か
昔、毎年雪解けを待って山路を越え、秩父へ絹を商いに来る甲斐国の商人がいた。ある年、昼過ぎに新しい草鞋で家を出て、日暮れ近くに山賊が出ると恐れられた峠にさしかかった。これまで襲われたことがないので平気で越えかけたが、途中で大岩の陰から六尺を超す大男の山賊が二人現れ、金を出せと迫った。商人は坂を駆け下りたが二町ほどで捕まって引き倒され、刀を突きつけられた。その時ふと観音の姿を思い浮かべて一心に祈ると、顔に落ち着きと笑みが浮かんだ。気味悪くなった山賊は刀を抜いたまま後ずさりして消え、商人は無事に秩父へ着いた。観音の力に感じ入った商人が秘蔵の像を祀って建てたのが野坂寺だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父の伝説と方言
『秩父の伝説と方言』は、秩父市教育長鶴沢福松の序を付し、編集委員が執筆整理にあたって編んだ秩父地方の伝説と方言の集成である。秩父市と秩父郡に伝わる伝説を集め、武甲山麓のジジイ・ババア石、橋立鍾乳洞の悪龍、畠山重忠や坂上田村麻呂にまつわる話、伐ると祟る天狗松などを語り口調で記す。伝説は石・水・塚・屋敷跡・山と人物・地名・社寺および城跡・木に関する八つの部に分け、話によっては他地方の類話を注記する。