国賊の寺と言われ記録を焼いた延命寺の老婆
どんな伝承か
著者らが最初に延命寺を訪れたとき、境内で寺の老婆に出会った。老婆は深い皺を硬直させて問いかけに沈黙していたが、やがて自分の言うことはみんなほんとのことだと口を開き、寺の遺跡を熱した口調で語り、うちは将門の寺だと言ったところで言葉が切れた。そのあと声を低くして語ったのは太平洋戦争中の話で、将門が朝敵として誅された謀反人であり、延命寺が国賊の寺だとされたことが、二十年を経てもなお心の傷になっていた。沢山残っていた古い記録も火をつけて焼いたり襖の下張りにしてあらかた始末したといい、取り返しのつかぬことをしたという思いが籠もっていた。もう国賊ではないという著者らの言葉に老婆は初めて笑った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
将門伝説——民衆の心に生きる英雄(梶原正昭・矢代和夫・1966年(昭和41年))
『将門伝説——民衆の心に生きる英雄』は、梶原正昭と矢代和夫が一九六六年に著した平将門の伝説の研究書である。茨城県岩井町をはじめ各地の伝説地の踏査と、縁起・古記録・地誌をもとに、将門の怨霊と調伏、七人の影武者、子の良門や娘の如蔵尼、寵妃桔梗ら落人の行方、後裔を名告る家々、伝説の伝播と文芸化をたどる。序章と三篇からなり、巻末に青森県から鳥取県までの伝説分布と、寺社縁起など関係文献の抄録を附録として付す。