弁千代の名で逃げる両上杉勢の夜盗虫
どんな伝承か
川越市杉下では、夏の夜になると甲首の夜盗虫が田畑を荒らしたという。そのとき戸をあけて表に出て、「弁千代、弁千代、弁千代」と三声唱えると、夜盗虫の群れはたちまち群れを乱して逃げ去ってしまうと伝えられる。この夜盗虫は、昔の川越の夜戦で討たれた両上杉勢の怨霊であり、弁千代とは、その戦で勇ましく戦った北条方の少年の名であったという。害虫を戦場で没した者の霊のしわざとみる古い考え方に基づく伝承で、亡霊となっても弁千代の名は恐ろしいに違いないという俗信から出たものとされる。
原典より
夏の夜、甲首の夜盗虫が田畠を荒らす。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。