大築城跡に湧く硯水
どんな伝承か
埼玉県比企郡都幾川村、いまのときがわ町の椚平にある大津久城の城跡に、硯水と呼ばれる泉があると『武蔵国郡村誌』は記す。この泉そのものには伝説が伴っていない。ただし本書の解説によれば、硯水は筆清水ともいい、頼朝や義経が願文や恋文を書くために筆で掘ったと伝える土地が多い。柳田国男は、大きな岩の上のくぼみで神馬の足跡と呼ばれるもののうち、絶えず水を湛えているものを人は硯の水と名づけて敬ってきたと述べ、昔の田舎の人にとって硯とは、経文や証文といった重い物を書くための道具だったのだと説いている。
原典より
大津久城墟に硯水という泉がある。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。