狸が呼ぶ本所の置いてけ堀
どんな伝承か
本所の被服廠跡、今は納骨堂の建つ所と本所停車場の間から東にかけて、四ツ目あたりまで昔は大きな堀があった。これが俗にいう置いてけ堀である。堀のまわりには葭や蘆が生い茂り、所々に木が林をなして、狐狸の棲家には格好の場所であった。釣り好きの連中が一日太公望を決め込み、夕方に魚籠を重くして帰ろうとすると、蘆の叢の中から狸が「置いてけ、置いてけ」と騒ぎ立てる。漁獲を置いて行かなければ、三つ目小僧や大入道に化けて行手に立ち塞がるので、釣り人は魚も竿も放り出して逃げてしまう。女子供が白昼この堀端を通るときも、関所を通るように油揚か何かを置いて通ったという。堀の跡は明治の初年までは偲べたが、今は跡形もわからない昔話になった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
『江戸傳説』は、佐藤隆三が著した江戸と東京の伝説集である。将門の首塚、番町皿屋敷、お玉ヶ池、置てけ堀、縁切榎、矢口渡など、市中と近郊の塚・池・坂・井戸・寺社にまつわる由来譚や、化け狐・猫又の怪異を、『江戸名所図会』『将門記』などの記録を引きつつ語る。目次に四十の項を番号順に並べ、口絵の図絵と目次番号に対応した伝説分布図を添え、巻末に資料参考書目を付す。